建築士の豆知識!「良いひび割れと悪いひび割れ」その違いとは?

上が垂直ひび割れ、下がバッテンひび割れ

一級建築士の豆知識として、今回はコンクリート系の建物で時折見られる「ひび割れ」について、わかりやすく解説したいと思います。ひび割れの種類によっては、良いものもあれば、悪いものもあります。その違いと簡単な見分け方を紹介します。

ひび割れは、割れ幅「0.3mm」が境界線!

国土交通省の定めでは、ひび割れの割れ幅が「0.3mm」で、善し悪しを決めています。といってもひび割れ自体は決して「良い」ものではありませんが、ここで「良い」というものは「すぐに重大な欠陥には繋がりにくい」という意味でとらえて頂ければ幸いです。
国土交通省では0.3mm以下のひび割れを「ヘアクラック」と呼び、0.3mmを超えるひび割れを「構造クラック」と呼んでいます。「クラック」とはひび割れのこと。ヘアクラックとなると「細いひび割れ」という意味で、すぐには重大な欠陥には繋がりにくいひび割れという定義になっています。反面、構造クラックとは「構造にまで影響する深刻なひび割れ」という定義になっています。
良し悪しだけをとれば、つまりヘアクラックなら「良いひび割れ」で、構造クラックなら「悪いひび割れ」という位置づけになります。しかし実際のところ、ひび割れ幅が「0.3mm」を超えているか否は、建築士が見てもすぐにわかりません。ひび割れ測定用のメジャーもありますが、建築士でも常に持ち歩いているわけではありません。でも、ひび割れには、もっとわかりやすい見分け方があります。

髪の毛のようなひび割れだから「ヘアクラック」

「ヘアクラック」と聞くと何のことかわかりにくいですが、「ヘア」と「クラック」と分けると、わかりやすいと思います。つまり「ヘアのようなクラック」で、「髪の毛のようなひび割れ」と言うことになります。髪の毛のように細いひび割れという意味となりますが、実は建築士としては縮れ毛のような形状という意味もあります。ひび割れを見て、縮れた髪の毛っぽく見えたら「ヘアクラック」と認識できることでしょう。
国土交通省の0.3mmという規定もありますが、ヘアクラックでも0.4mmのものもあり得ますので、数値よりもこの「縮れた髪の毛」のような形状の方がわかりやすい思います。

「構造クラック」も形で危険度が異なる!

国土交通省の規定では、0.3mmを超えるひび割れを「構造クラック」としています。その理由はこの割れ幅が大きいと、ひび割れから雨などがコンクリート内部に入り込み、中の鉄筋や鉄骨を腐食させてしまう可能性が高いからです。コンクリート造の建物は、必ず中に鉄の構造体が入っていますので、その鉄に影響を与えてしまうひび割れだから「構造クラック」と呼びます。
さらにその構造クラックも、その形で危険度がかなり変わってきます。中には重大な欠陥がわかるひび割れの形も!?

「垂直水平ひび割れ」は比較的危険度が少ない構造クラック

建物は、斜めの部分があっても、基本的に水平と垂直の構造体で構成されています。その垂直水平に平行してできた構造クラックは、危険度が比較的少ないと想定できます。地球には垂直方向への重力が常にあるので、建物にも同様にその重力がかかり、垂直方向ないし水平方向にはひび割れは発生しやすくなります。
そもそも、コンクリートはひび割れしやすい素材で、構造がしっかりしていてもひび割れは起こりえます。むしろひび割れが何年経過しても全くないものは、構造があまりに固く、地震時のような有事の際に一気に壊れる可能性も考えられます。
建物自体は固くても、地震時にはその振動を吸収するための柔らかさも建物には必要で、その結果、垂直水平方向のひび割れが生じることもあるわけです。ちなみに、この垂直水平方向のひび割れは、割れ幅や大きさにもよりますが、すぐに溝をふさぐ補修をすれば、特に大きな問題にはならない可能性が高いです。

「斜めひび割れ」はかなり危険度が高い構造クラック

垂直水平のひび割れは、すぐに大きな影響は少ないと推測できますが、斜めに入ったひび割れは要注意です。建物は垂直部材と水平部材で基本は構成されているので、斜めのひび割れが発生すると言うことは、その建物の構造バランスが悪いと推測できます。もちろん大きな地震などで、想定以上の負荷がかかると、建物のバランスも悪くなり、この斜めのひび割れができる可能性もありますが、地震時以外にこの斜めのひび割れが発生したらその建物は要注意と言うことになります。
しかも、この斜めひび割れは補修しても、建物のバランスが悪いので、すぐに別の場所で同じような斜めひび割れが発生することが多いです。斜めひび割れが発生したら、ひび割れの補修もさることながら、根本的に建物そのもの耐震補強を検討することをおすすめします。

「バッテンひび割れ」は重大な危険度を示す構造クラック

斜めひび割れだけでも危険度が高い構造クラックですが、これがクロスしてバッテンになるひび割れは、重大な危険性を示す構造クラックとなります。斜めひび割れだけなら、建物のバランスが悪いだけなので、耐震補強などで十分対応可能ですが、このバッテンひび割れになると、根本的に建物に問題がある可能性が高いので、耐震補強だけでは対応しきれない場合もあります。中でも柱にこのバッテンひび割れが発生したら、その建物には重大な危険度が潜んでいる可能性がかなり高いということになります。
このバッテンひび割れは、大地震の時によく見られるひび割れで、それほど大きな負荷がかかるときに発生するものですが、大地震でもない時に発生するとなれば、その深危険度の高さは明確です。バッテンひび割れが発生したら、耐震補強も大規模なものが必要になり、場合によっては、改築や建て替えまで必要になる場合もあります。

ひび割れは、割れ幅よりもその形で建物の危険度がわかります。「髪の毛」「垂直水平」「斜め」「バッテン」の4つで、ひび割れの危険度を判断しましょう。もちろん、例外もありますが、基本的には形でその建物の状態を推測できるかと思います。建物の状態を確認する時は、ひび割れを隠せない「タイルや塗装がない場所」をチェックしましょう。

 


ライタープロフィール
ペンネーム MISAKI

一級建築士。建築設計事務所に8年在籍、マンションから再開発まで様々な建築の意匠設計を手がける。
マンションリフォームマネージャーなる資格も有し、リフォームやリノベーションにも精通。
現在はIT系ビジネスに従事し、ネットを駆使して建築や不動産をはじめとする様々な情報を配信。

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